あの日、なぜか惹かれた一軒の洋食店

先日、妻の実家の用事があり、石川県へ向かいました。
息子と二人で宿泊したのは、小松市の駅からほど近い場所。
妻の実家とは隣の市になりますが、私たちには土地勘がまったくありません。
とりあえず明日に備えて、「何か食べておこうか」という、そんな軽い相談から夜の外出が始まりました。

せっかくなので、お鮨でも食べられたらいいね、と駅周辺をぶらぶら。
けれど、これといって心が動くお店には出会えず、
二人とも少し歩き疲れてきた、ちょうどその頃でした。

ふと目に入った、一軒の洋食店。
派手さはないのに、外観は落ち着いていて、
窓からこぼれる灯りが、やけにやさしく感じられました。

「ここ、良さそうだね」
息子がそう言い、私もなぜか迷いなくうなずいていました。

まるで吸い込まれるように扉を開け、席に着き、料理を待つ。
運ばれてきた洋食は、どれも丁寧で、どこか懐かしい味。
気取らないのに、きちんと心に残る味でした。

「偶然だけど、いいお店に入ったな」
その夜はそれだけで十分満たされた気持ちになり、宿へ戻りました。

——それからしばらく経った、つい最近のことです。
またこの駅近くで食事をする機会があり、今度は妻と二人で、あの洋食店へ向かいました。
忘れられなかったのです。
「このあいだ、美味しいお店を見つけてさ」

すると、店の前に立った瞬間、妻がぽつりとこう言いました。
「ここね、私が学校を卒業してすぐ勤めていた勤務先の跡地なの」

思わず、言葉を失いました。

だからだったのでしょうか。
あの日、土地勘もほとんどない親子が、迷わずこの店に引き寄せられた理由。
説明のつかない「なんとなく」が、あとから静かに意味を持って現れてきます。

ご縁というのは、後になってから気づくものなのかもしれません。
偶然の顔をして、すっと目の前に現れ、
振り返ったときに、静かに「実はね」と語りかけてくる。

あの夜、息子と二人で食べた洋食の味。
そして、妻の過去とつながっていた場所。
すべてが一本の線で結ばれたような、不思議な感覚でした。

縁とは、本当に不思議なものですね。
だから今日も、偶然を少しだけ信じて、歩いてみようと思います。

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